寝ようと電気を消して自分の部屋の中に入ろうとした夕香だったが間違えて、月夜の部
屋に入っていた。一ヶ月も嗅いでいない月夜の匂いにほっとしながら引っ越したばかりで
あまり見たことの無い部屋の配列見ていた。
 窓際には、何もおかずにきちんと整理された机とその上にある参考書、ノートの類。ベ
ッドはシンプルなパイプベッド。高さはハイで下には本だながびっしりと敷き詰められて
いた。風の流れが変わった。首をかしげて耳を澄ました。
 深い闇が辺りを包んでいる。その闇の中、窓からのそりと入ってくる影が合った。夕香
は月夜の部屋の中、ほぼ勘でそれを察知して常備してある刃を抜いてその影に近づいた。
当然、音も無い。影はそれに気づいているようだが動こうとせずに身構えた。
 紫電一閃。
 月に煌き光刃が映る。影はそれを避けて刃を持つ夕香の手首を掴んだ。覚悟して目をぎ
ゅっと瞑ると手を上げさせて刃を取り落とさせられもう片手も掴んで壁に押し付けられた。
 ひんやりとした手が頬に触れる。久しぶりの雰囲気。懐かしい匂い。
「夕香」
 低い声で囁かれてはっと息を呑んだ。久しぶりに聞いた低くて掠れたその声に目を見開
いて影をじっと見つめた。影は蠢きそっと唇を重ねた。それを自分からも求めて交わすと
顔を離して手を解放してもらった。
「ばか」
「悪いな」
 悪びれた様子もなく肩を竦めて月夜は向かい合って言った。その膝がかくんと折れた。
それを夕香は支えると伝わってくるはずの霊力が極端に少ない事に驚いて月夜の顔を見た。
「すこし、帰ってくるときに無理してな、無理やり穴をあけたからこの様だ」
 辛そうに息を吐く月夜の肩にあごを乗せてぐっと抱き締めた。月夜の重さを支えきれず
に夕香は膝をついた。そのまま目を閉じて十数えた。
 月夜は近くにある壁に手をついて折れた膝を立て直して夕香を抱えながらそのままソフ
ァに倒れこんだ。
「月夜?」
「もうもたない」
 その言葉に夕香は驚いて身体を強張らせ、赤面しながら期待と恐怖が混ざった表情で月
夜を見た。一方、月夜は自分が勘違いされる言葉を吐いたと気づかずにソファに体を預け
て耐え切れずに目を閉じた。消えかける意識の中で夕香がくすりと笑う気配が微かに感じ
られた。
「このばか」
 夕香は抱えられながら月夜に体を預けていた。すぐに寝てしまった月夜の疲れ切って青
白くなっている寝顔に溜め息を吐いた。顎の線は僅かに鋭くなっただろうか。元からやせ
ているほうなのにもっと痩せた月夜に目を伏せて額を月夜の胸に押し付けた。穏やかな鼓
動が頬に触れてその音を聞くように顔をずらした。
「……」
 そのまま月夜の胸に顔を埋めて目を閉じてゆっくりと襲ってくる眠気に身を預けた。



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